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遠くの友へ

月刊誌『少年倶楽部』は当時30銭。
吉川英治や大佛次郎など一流作家陣による少年向けの長編小説をそろえ
人気を博していました。

「30銭っていうのはとんでもない金額だった」

9人兄弟の8番目だったTさんにはとても手が出せません。
そこで、友達とグループを作って毎月順番に購入することにし、回し読みをしました。
自分の番になるまでにお小遣いを一生懸命貯めていたのです。
ワクワクする冒険物語を少年たちが夢中になって読み、
興奮を分かち合う姿が浮かびます。

その友人の一人、I君が満州へ一家で移住しました。
場所は「満州里」という内モンゴルにあるソ満国境の街。
当時はそれがどの辺なのか知りませんでした。

ある時、I君へ読み終わった『少年倶楽部』を送りました。
父親が、雑誌を丸めて帯に宛先を書いてくれました。
「満州国・・・満州里・・・  〇〇様方 〇〇様」

しばらくたって親御さんからお礼状が届きました。
深い深い感謝の念が書かれていました。

最果ての地、「満州里」。
『少年倶楽部』を受け取ったI君はどんな思いだったでしょう。
浮かんでくる遠い故郷の山河、友人たちの顔、顔、顔。
冒険物語の興奮よりも、分かち合う友がいない寂しさに暮れたかもしれません。

I君一家は結局、帰ってくることができませんでした。

少年たちの夢や友情を引き裂いたあの時代、満州とは。
Tさんは今でも時々、遠くに行ったI君の面影が浮かんでくるそうです。
『少年倶楽部』の思い出とともに。




by kinen330 | 2017-08-02 19:10

満蒙開拓平和記念館の非公式ブログ。記念館にまつわるよもやま話を綴ります。


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