スミレの刺繍
2023年 05月 05日
「日本のお土産にと思って、作って送ったんです。
あの方たちは、その後、どうされているのでしょう。」
ゴールデンウイーク、観光地は賑わっているようですが、
記念館も家族連れや県外からのお客様が来てくださっています。
そんな中、窓口からそっと声をかけてこられる女性。
手には、スミレの花を刺繍したキルティングの手作りの小さな袋を持っておられます。
1981年から残留孤児訪日調査が開始されました。
第一次訪日団は47名。
左胸に黒いあざが数個ある。
埼玉か山梨出身で5人兄弟の末子。
新京の難民収容所で軍人の仲介でSさんにもらわれた。
・・・・
ボランティアの通訳を介し、繰り広げられる面接調査の末、
肉親判明者30名。
涙の再会をメディアは大いに取り上げました。
そんな人たちを横目に見ながら、待っても待っても肉親が現れない人もいました。
白いキルティングの表地に、裏地には鮮やかな花柄の布があてられ、
周りを緑の布でふちどり、丁寧にまつってあります。
少し頭をもたげたふたつの花は
中心からピンク、白、水色、紺へと広がり
柔らかいカーブを描いた黄緑の茎に、根元で広がる3枚の緑の葉。
お帰りなさい。苦労されましたね。
あの方たちに思いを寄せながらひと針、ひと針。
人数分、作って送ったのだそうです。
その人のやさしさに胸が熱くなり、そして、
この袋を手にした人たちのその後のさまざまな人生を想像して
胸が痛くなるのでした。
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by kinen330
| 2023-05-05 18:54