「有ったことを 無かったことにはできません」
ああ、この揺るぎない信念で動いてきた人なのだと改めて納得した。
語り部定期講演に続く新企画「土曜セッション」。
第1回目のゲストは、岐阜県黒川村開拓団の遺族会長、藤井宏之さん。
終戦後の満州で、現地の人たちからの凄まじい襲撃、略奪にあう黒川開拓団。
犠牲者も出ていた。
近くに駐留していたソ連軍に助けを求めることに。
その見返りとして、開拓団の未婚の女性たちが差し出され、性被害を強いられた。
この史実は戦後伏せられたままだった。
2011年、初めて戦後生まれの遺族会長に就任したのが藤井さんである。
記念館との交流の中で、女性たちのうちの2人を語り部定期講演に連れて来てくれた。
初めて、その性被害が公の場で語られ、その後、メディアが報じ、全国的に注目を浴びることとなる。
「とにかく、女性たちの話を聴いてあげてほしい」
取材の窓口となって対応してきた。
この史実がいろいろなところに残ることが大切だと思い、取材を断ったことはないという。
開拓団が女性たちに犠牲を強いたこと。
戦後の遺族会も口をふさいできたこと。
自分の父親も無関係ではない。
そんな不都合な史実をオープンにすることに抵抗はなかったのだろうか。
「有ったことを 無かったことにはできません」
ためらいなく語る藤井さんの姿に、やはり、藤井さんだからこそ今があると思った。
女性たちの声が社会に届き、女性たちやその家族と遺族会の確執が解きほぐされてきたのだ。
真実に向き合うことの難しさ、痛みもある。
でも、向き合ったからこそ生まれる和解がある。
「ポスト体験者の時代」にどのように歴史を継承していくのか。
大きな課題となっている。
次世代の語り部を養成する試みも各地でおこなわれてきた。
どこも試行錯誤だ。
でも、「語り部」に資格や条件が必要なのだろうか。
養成しなくても、知識を詰め込まなくても、
体験者たちと関わり、共に歩んできた人たちがいる。
まだ声を上げられない人たちもいる。
「土曜セッション」は新しい語りの場であり、対話の場であり、分かち合う場。
その「場」を多くの人たちとつくっていきたいと思う。