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キセキの時空間

「仲間と来ようと思っていたんだけど都合が合わなくて。一人で来ました。どうしても来たくて。」

千葉県から来てくださったMさん。リュックを右肩にかけ、受付でこのようなやりとりをし、展示コーナーに入っていかれました。

直後に愛知県から60~70代のおじさま達20名が来館され展示ガイド。
ちょうど青少年義勇軍のコーナーでMさんに追いつきました。
「義勇軍は全国から9万2千人が送出されました」と説明すると、
「その中の一人です」とMさん。
昭和15年に満州へ渡った元青少年義勇軍。なんと御年90歳。

団体のおじさま達から「ほ~」という声があがりました。
それは、体験者本人との出会いという驚きの「ほ~」と
とても90歳には見えないという感心の「ほ~」。

ガイドを終えると、数人のおじさま達がMさんを取り囲んで体験談を聞き始めました。
ソ連侵攻時は満州の北西部、興安嶺という山脈の麓で陣を取り、
10キロもの爆薬を胸に抱えて敵の戦車に突っ込むという特攻作戦が命ぜられていました。
地響きを立ててソ連軍の戦車が向かってきます。
「なるべく大きい戦車の下に突っ込んでやろうと思っていた」と。
いよいよ近くまで来たと覚悟を決めていたら、急に静かになりました。
 ――― 降伏。
「間一髪でしたね~。」
息を詰めて聴いていたおじさまがねぎらいのことばをかけていました。

記念館では時々このような“即興語り部”が来館者同士の中で生まれます。
それは聴く人がいて語る人がいて、その場で創られるキセキのような時空間です。

「来てよかった。今度は仲間と来ます。」
Mさんはリュックを右肩にかけ、バス停までの登り坂をさっそうと歩いて帰られました。
すばらしい聴き手となったおじさま達はマイクロバスに乗り込んで「お姉さんもステキだったよ~」と調子良く言って帰っていかれました。
by kinen330 | 2015-07-12 18:47

満蒙開拓平和記念館の非公式ブログ。記念館にまつわるよもやま話を綴ります。


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