みっちゃんの最期
2021年 05月 19日
身内に満州へ渡って亡くなった人がいる。
名前と死亡地だけは分かるが、何か調べられる資料があるだろうか。
このメールがはじまりでした。
そこから、名前と出身地と亡くなった場所を聞き、
長野県内のS開拓団で間違いないであろうと考えられました。
しかし、名簿に名前はありません。
昭和19年に単身で行き、その年に帰ってくるはずだった当時19歳のMさん。
問い合わせをしてきた人の祖父の姉、大伯母さんにあたる人でした。
帰ってくる直前にお酒を飲んでなくなったということを伝え聞いているというのです。
農繁期だけ開拓団へ手伝いに行く勤労奉仕隊ではないかと推測できましたが、
不可解な死因であり、名簿は昭和20年、終戦時のものしかありません。
S開拓団の資料は少なく、確かめることはできませんでした。
そんなメールのやりとりがあって2ヶ月ほど経った先日、
職員が寄贈品の整理をしていると、
S開拓団だった人の体験記が連載されている文芸同人誌が箱の中から出てきました。
26冊に渡って、開拓団でのさまざまなできごとが綴られています。
気になって目を通していると、14冊目にそれらしいエピソードが載っていたのです。
昭和19年10月。勤労奉仕隊が日本へ帰る送別会でのこと。
主要な開拓団の男性たちが次々に召集されており、しんみりとしていた宴席で、
その場を盛り上げようとお酒をついでまわっていたのがMさんこと「みっちゃん」。
そのうち自分でも飲み始め、酔いがまわり、苦しみはじめ、意識を失ってしまいます。
団員が徹夜で看病しましたが、翌日亡くなってしまった、というものでした。
真実が明らかになることが、必ずしもいいことではないこともあります。
今でいう急性アルコール中毒のような状況で亡くなられたMさん。
ご親族の方はどう思われるだろうかと少し心配になりましたが、大変よろこばれ、
後日、「最期を看取ってくださった方々がいた」ことを
感謝の念で受けとめておられる旨のお手紙をいただきました。
満州で亡くなった大伯母の人生に思いを寄せる人。
勤労奉仕で故郷からやってきた若い女性の急死を悼み、文章に遺した人。
「お役に立つことを信じて」と、掲載冊子26冊を苦労して集めて寄贈してくれた人。
26冊の中からこのエピソードの記述を探しだした職員。
それぞれの思いが結びついて「みっちゃん」の最期にたどり着きました。
by kinen330
| 2021-05-19 13:00