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ねじまき鳥の声が聞こえたら

満州国の首都、新京。
新京駅から真っ直ぐ南にのびる中央通を進み、
大きなロータリーを越え、さらに大同大街を進むと、
左手に広さ十数万坪の動植物公園があった。
周辺にはラグビー場やテニスコート、野球場や陸上競技場が広がる。

1945年8月9日、ソ連軍侵攻。
戦車の地響きが新京にも迫っていたある日の午後、
動物園の猛獣たちが処分される、というエピソードが
村上春樹氏の『ねじまき鳥クロニクル』に出てくる。
虎、豹、狼、熊。象も対象となっていた。
上からの指示を受けた関東軍の兵隊たちがやってきて銃で撃ち殺すのだが、
かなり手こずり、猛獣たちの命が尽きるまでの生々しい描写が続く。
そして、象まで行きつかないまま疲れ果てた兵士たち。
彼らもその後、シベリアで凄惨な死を遂げるようだ。

この動物園の近くに住んでいた人の手記が記念館にある。
終戦前に「猛獣がつぎつぎに殺された」とあるが、
実際にどのような処分であったのかは触れられていない。

小説の中の語り手の父親は、動物園の獣医であり、その「抹殺」に立ち会う。
彼は哀しみも怒りも感じない。
ただ、その無感覚に戸惑う。

約30年前に出版された村上春樹氏のこの小説に満州が描かれていたことを
web上に書き込まれた来館者の感想から思い出し、図書館で借りて読み返してみた。
1部、2部、3部と3巻あり、3巻ともかなりの分厚さだ。

「人々はとくべつな人間にしか聞こえないその鳥の声によって導かれ、避けがたい破滅へと向かった。そこでは、獣医が終始一貫して感じていたように、人間の自由意思などというものは無力だった。彼らは人形がねじを巻かれてテーブルの上に置かれたみたいに選択の余地のない行為に従事し、選択の余地のない方向に進まされた。」
  (『ねじまき鳥クロニクル 第3部 鳥刺し男編』(新潮社 1995年)より)

今もどこかでねじまき鳥がねじを巻いているのかもしれない。
ギイイイッと。


by kinen330 | 2024-05-18 19:24

満蒙開拓平和記念館の非公式ブログ。記念館にまつわるよもやま話を綴ります。


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